密集市街や古家が立ち並んでいる地域では、建物が隣地境界を越境していたり、他人地に水道管や排水管が越境していることもあります。
そのような土地は、隣人から建物の越境物の撤去を求められたり、上下水道の配管の移設を求めらえることもあるでしょう。
売主や不動産会社は買い手に対して説明義務を負いますので、上記のような物件を何も説明せずに買い手に売却をしてしまった場合には賠償義務を負ってしまうことになります。
こういった隣地越境の問題は、近隣トラブルの発生の元となりますので、不動産売買をする前に当事者のヒアリングや覚書等の対応が必要となってきます。
越境問題のほかにも、境界線の確認やブロック塀などの所有の確認(売主所有なのか、共有なのか、隣地所有なのか)もしなくてはいけません。
境界線がはっきりしていない物件は、建物の一部が隣地越境している、ブロック塀の所有がわからない等、これらの問題が重複していることも多いです。
1.隣地越境している建物を売却
隣地越境している建物を売却する場合には、現況のままで買主に引き渡すことが多いでしょう。解体して更地渡しをするならば、隣地越境の問題は解決されます。
現況のままで買い手に引き渡す場合には、隣地越境の有無を買主に説明するだけでは不十分です。引き渡し後に、買主と隣人との間でトラブルが発生することも考えられます。
・隣地越境の部分を解消してから引き渡す
・または再建築する際には越境しない等の覚書を取り交わす
越境に関する覚書を交わしてから、買主に引き継ぎます。越境物の確認をおこない、隣人と覚書を交わしておくことで、争いの予防となります。
また、買主の立場として、越境物がある建物を購入する場合でも不動産会社の方に覚書を取得してもらったほうが良いでしょう。隣人の方が協力して覚書を交わしてくれるとも限りませんが…
1-1.隣の土地に建物の一部がはみ出している
建物をこれから建てる側も、建てられる隣人の人も、お互いに気持ちよく暮らしていくためには隣地越境物はそのままとすることはできません。
隣地に雨どいや屋根が越境していることで、台風時や大雨時に雨水などが隣地に大量に流れ落ちてしまうことだって考えられます。
そのようなことになってしまうと、隣地の建物や外壁等に相当のダメージを与え続けることになります。
汚れを与えるだけでなく、隣地の壁に直接雨水をかけてしまうことはシロアリや腐朽の原因にもなってしまいます。
このようなことが起きないように民法では境界線から50cm以上離すように定めています。
民法第234条 建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
2 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
境界線から50cm以上離さずに建築したばかりに、隣人の方がずっと遺恨を持っていたというケースもあります。
隣人の方が非協力的になってしまうと、リフォームの際の足場の設置にも容認してくれません。
建物の一部が隣地越境している家は、境界線から50cm以上離していない家がほとんどです。
隣地との関係が悪化していると、なおさら物件を売却することは難しくなってしまいます。
1-2.隣地の地下に配管が埋設している
袋地や間口が狭い土地、通路の土地が分筆されているのであれば、他人の土地に上下水道の配管の越境、また電気の電線が空中越境していることもあります。
自分の土地が公道に面していれば、他人の協力を得ずとも工事の手続きをとれるのですが、袋地や間口狭小地の場合には、そうはいきません。
また、通路が分筆されていて、一部の所有者が工事の手続きに協力をしてくれないこともあるかもしれません。
隣人が代替わりしたり、所有者が変わってことで、新しい隣人から地下の配管を移設してくれと言われることもあるでしょう。
生活に欠くことができない配管に関しては、建築当時に隣人の承諾をとって隣地の土地を使用している可能性もあります。
役所に承諾書が残っている、または所有者自身が隣人との覚書を保管していれば、それは大事な書類となります。隣人が代替わりしていたり、第三者に所有権が移っていたとしても、書類をもって納得していただくことが可能です。
無い場合には、誠意をもって交渉する他ありません。
他人地に上下水道やガスの配管が通過していれば、売る時になって問題となってしまうのです。
1-4.都市ガスをひきたくてもひけない
東京23区でも、通路部分の都市ガス工事が出来ずにプロパンガスのままの建物も多いです。
隣地や手前の方の同意を得られずに、都市ガス工事を諦めている方が殆どです。
公道に面していれば、このようなトラブルは発生しませんが、私道に面している土地であれば、このようなわずらわしい問題を抱えてしまうことがあります。
都市ガスをひくために訴訟によって要求を通すことは可能です。
土地の状況によっては、ガス、上下水道、電気などの配管・配線等を他人地に通すことが認められています。
裁判所の判決では、民法や下水道法の法律を適用させています。
生活に欠くことができない配管や配線等については、隣地から無茶難題を言われたり了承をもらえなかったとしても、ガス管工事を認めらてくれる判決が数多くあります。
しかし、わざわざ訴訟をおこす必要がある物件を買おうと思う方は少なく、プロパンガスの物件であれば市場評価は下がってしまうでしょう。
1-3.隣地との境界があいまいになっている
土地や物件を売る時には、隣地との境界を明示する必要があります。
隣地との境界があいまいになっている土地や家は、売りづらくなります。
境界を確定させて境界標等の設置を行うことで、隣地越境の有無やブロック塀の所有をはっきりと明示することが出来ます。
隣地越境がある場合には、越境物の解消や覚書などの対応をおこなうことになります。
下記ページもご参考くださいませ。
土地の境界確認や境界明示、測量を行っておく【境界確定/紛争】
1-5.覚書を交わしておく重要性
隣地に建物の一部が越境している場合には、隣人の方も不快な気持ちをもっているかもしれません。。
越境物があるために、隣地の建て替え計画に支障が出ることだって考えられます。
修復不可能な問題に発展してしまうこともあるため、越境物については次の建て替えの際に越境部分を解消する約束をしなくてはいけません。
そのために、覚書を交わしておくのです。
隣地に通っている上下水管やガス管などの承諾書も、出来るだけ売却するときに売主または不動産会社において取得しておくことです。
「自分の土地に他人の配管が通っていて困っている」と隣人は考えているかもしれません。将来、隣地の土地の使用に制約が出ることも考えられるため、ある程度の金銭を支払う等の和解金が発生することもあります。
さいごに
隣地越境している建物を売却する場合には、覚書の取得や境界確定は必要となります。
親からの不動産を相続したことで、「隣地越境のことなど全く知らなかったし、隣人から苦情を言われたこともなかった」という売主様も多いですが
売主様の物件や隣地の物件を、何も知らない第三者に譲渡されていけば、将来にトラブルが発生することは十分に考えられます。
隣地越境の有無や境界線に関しては、買主に説明をしなければいけない重要なことなので、売却前にできる限り解決をしておくことが良いでしょう。
買主の立場としては、境界確定されていない(敷地が確定されていない)、隣地越境がある(後々トラブルになるかもしれない)物件を高く買うのは、非常にリスクが伴うわけです。