1.通行・掘削の同意書に署名捺印するメリットデメリット
隣人から通行掘削の同意書の署名捺印を求められることがあります。おおよそ、隣人の方の不動産売買や建築をする為の理由が殆どでしょう。
敷地までの通路や私道の持ち分が無い場合には、一般の人は購入を避けやすい傾向があります。
通行権の有無がはっきりしていない、掘削できない問題が発生するかもしれない不動産は、売るに売れなくなってしまうことがあるからです。
私道所有者は通行承諾書や掘削の同意書に署名捺印しなければいけないのでしょうか?署名捺印することで私道所有者にデメリットはあるのでしょうか?
デメリットがあるとすれば、通行・掘削の同意書に署名捺印しないばかりに、近隣関係の悪化や裁判沙汰に発展してしまうことが考えられます。
その私道や通路を利用する方に通行や掘削の承諾をしてあげることは、隣人が健康で文化的な最低限度の生活を送る上で大事なことです。
1-1.私道を共有してる場合
もしも、他の私道共有者が通行・掘削の同意書の署名捺印を求めてきた場合には、応じることが一般的です。
私道の維持管理は共有者で行う必要があるため、わざわざ拒否をする理由をつくる必要がないでしょう。
今度も、私道共有者全員で私道の整備や排水整備を行っていく必要があるからです。
但し、私道共有者間で車両の通行が問題となることがあります。今まで誰も私道共有者が車両の通行をしてこなかった場合には、車両通行の同意を求められた場合には状況によって判断しましょう。
自動車で通行する際の条件を決めて、協定書や覚書を交わしたほうが良いこともあります。
私道所有者にとって、車両通行を許可することで、歩行者通行が不便になるといった支障が出る場合には、必ずしも車両通行を承諾する必要もありません。
家の工事では一時的な車両通行はお互い様ではありますが、
工事車両が通行する期間や時間帯・車両誘導員の確保・長時間駐車の禁止・安全策などを約束しておくことが私道共有者間で揉めない方法となります。
1-2.囲繞地所有者の場合
隣人が自分の敷地を通行している場合には、隣人が通行や掘削の覚書を求めてくることがあるでしょう。
他人の土地に囲まれている土地を袋地、囲んでいる土地を囲繞地といいます。
袋地の所有者には囲繞地通行権が認められますが、囲繞地所有者によっては通行や掘削を認めたくないという方もいるでしょう。
東京23区では土地の価格も高く、隣人が自分の敷地を無償で通行や掘削をすることに納得がいかない方は多いです。
再建築不可の土地では、この通行の問題が発生したり、他人の敷地に水道管・ガス管等が通過してる場合があります。
隣人が自分の敷地を通行している場合には、事情によって、通行承諾料や償金を支払ってもらうことを考えましょう。
但し、隣人が償金を支払わないからといって、隣人に敷地の通行をさせないということは、過去の判例をみても認められていません。
民法(公道に至るための他の土地の通行権)
第210条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
第211条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
第212条 第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、1年ごとにその償金を支払うことができる。
第213条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
1-3.袋地所有者場合
袋地所有者は、他人地を一部通行しなくては敷地までたどりつけません。また道路に通じる道が狭い土地の場合でも、他人地を通らなくてはいけないことがあります。
不動産売買やリフォーム工事をする場合には、私道所有者、囲繞地所有者の通行・掘削の同意を得ておきたいところです。
この通行・掘削の同意が得られていない場合には、資産価値が大きく減ってしまうだけでなく、将来的に近隣トラブルが発生してしまうことも考えられます。
なるべく、通行・掘削の承諾は書面で取り付けておきたいところです。他人の敷地を通行する場合には、中々通行・掘削の承諾書をもらえないことも多いです。
承諾書をもらえない場合には、償金の支払いや私道の費用負担を申し出て書面で取り付ける努力をおこなうことです。不動産売買において書面が取り付け出来ていない場合には、売りづらくなるというデメリットが大きくあります。
但し、共有地分割や一部譲渡によって、その袋地が発生した場合にはその土地は無償で通行することが出来ます。
1-4.通行掘削の承諾書は断るべきか?
今までは善意で隣人の通行を許可していたけれども、所有者が変わったのであれば
『これまで通り通行を許可する義理もないだろう』という方もいるでしょう。
但し、囲繞地の所有者が、第三者に売買されて袋地所有者が変わったとしても囲繞地通行権や通行の自由権が認められていることを知っておかなくてはいけません。
今まで通行地として利用されていた土地にコンクリートブロックや植木鉢を置いたり塀をつくってしまうと、隣人から妨害排除の仮処分申請や裁判をおこされてしまうことも考えられます。
囲繞地通行権とは
他人の土地を通らなければ道路に出ることが出来ない土地(袋地)は、覚書や承諾書が無くとも他人の土地を通行することが出来るというものです
承諾書を断ったとしても、袋地所有者の通行は認められているため、通行禁止を求めることはできません。争いや遺恨を遺さないで、承諾書や覚書を交わしておいたほうが良いこともあります。
但し、承諾書や覚書の署名捺印を求められた時には、隣人に通行する際の条件や償金等を求めることができます。
・償金を求める(1年ごとの通行料や私道・通路の一部舗装費用、維持費用の分担を求める)
・通行する際の条件を決める(通路として利用できる幅員、車両通行する際の約束等)
・通行地役権の設定をする
囲繞地通行料は必ずしも償金の支払いが認められるわけではありません。共有地の分割や一部譲渡などによって袋地が出来た経緯がある、以前に通行承諾書を交わしている場合には、支払う必要が無いのです。
2.私道や他人地の通行トラブル
私道や通行地については、近隣紛争やトラブルが発生することが多いです。
主に私道や他人地の利用の問題です。(通行権やガス・水道工事等の掘削)
私道は個人が所有していて私的に利用している道路のことです。
通行地役権の設定をしている、土地の賃貸借契約を交わしている、囲繞地・隣地通行権が認められている場合を除いて
誰しも通行の権利があるというわけではありません。
袋地所有者や私道持ち分が無い方は、所有者の善意による通行の黙認をもらっていたことも多く
その土地を購入した袋地の所有者が、私道の所有者に償金を求められることがあるでしょう。
2-1.通行承諾料やハンコ代は必要?
すでに上述していますが、下記のような場合には通行承諾料などを支払う必要は無いと考えられます。
・分割によって生じた袋地となった場合の通行権
・二項道路や位置指定道路であって、その土地の持ち分を一部所有している。二項道路、位置指定道路は公共の需要を満たすためにある道路である
・その通行地の所有者から一部譲渡によって袋地や敷地を購入している(囲繞地通行権もセットで購入していると考えられる)、通行地の所有者が第三者に売買されても継承されるものである。
上記のケースを除いて、新たな袋地の所有者や不動産仲介会社は、通行掘削の承諾料やハンコ代等が発生する可能性があることを考慮しなくてはいけません。
今までは善意で使わせてもらっていたことも考えて、売買の時には隣地の方にヒアリングしておくことが大事です。
2-2.通行承諾料の決め方
囲繞地通行料の算定をする事例が少なく、当事者で通行承諾料を協議する場合には判例を確認しておくこと、私道の利用状況・利用割合に応じて決める必要があります。
通行掘削の承諾料として、一括補償代で土地価格×5%から10%で計算することもあれば
その土地に課せられる固定資産税の額や、賃料相当額を考慮して、1年ごとの支払額が定められることがあります
2-3.私道や通行の問題解決は当事者努力が必要
当事者が法律論に発展すれば不動産会社が仲介に入っていたとしても解決することが難しく、近隣関係が悪化してしまうことも考えられます。
それに第三者に売買されることで当事者の主張が変わってしまうことも考えられます。。
近隣関係を悪化させないためにも、当事者は袋地や私道持ち分が無い土地が発生した過去の経緯を知っておきましょう。
過去の経緯は、土地の登記簿謄本や前所有者、隣地所有者、近隣の方からのヒアリングで把握することが出来ます。
※この辺の調査に関しては、不動産会社に仲介依頼するときにお願いしておきましょう。現地調査や役所調査は不動産会社の業務の一環です。
さいごに
袋地や再建築不可の土地の場合には、囲繞地通行権が認められます。
民法第210条、211条、212条、213条や下水道法第11条では、他人地の通行権や排水管の設置が保障されているからです。
通行として認める幅員は、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければいけないことが前提となり、実際の判例は千差万別です。
日常生活を送る上で問題にならないレベル、また災害時の避難や救急搬送と消防活動の能否の問題を考慮すると、1mから1.5m以上の幅員は確保するべきと考えられます。
認められる幅員に関しては、判例では下記のような事情を考慮されることになります。
1、人の通行だけで良いのか、車両通行も認めるべきなのか
2、日常生活を送る上で問題にならないか
3、災害時の避難や救急搬送と消防活動の能否
4、袋地が生じた経緯、私道・他人地の利用状況
5、囲繞地所有者が受けると考えられる損害
6、建築基準法、民法、下水道法等の法律の関係